昨年からの一年間、とある施設でご夫婦の診察をさせて頂きました。
ご高齢で、またコロナ禍でもあり部屋の中にいらっしゃるのですが、
いつも同じソファの上に二人並んで座っていらっしゃいます。
こちらの都合で伺う時間帯が変わることもあるのですが、
ドアをノックしてお部屋に入るとどの時間帯でもいつも、
まるでひな祭りのお内裏様とお雛様のように、
おふたりはソファに横並びで座っています。
特別にいろいろとお話しをされているわけではないのですが、
いつもおふたり横に並んで、にこにこと座っていらっしゃいます。
一年間往診に伺っている間、
一度もおふたりが並んで座っていなかったことがありませんでした。
ただただ、いつもにこにこと一緒にいらっしゃいます。
夫婦円満の秘訣を伺っても、「そんなんないよ。」とおっしゃるだけです。
つらく寂しい時こそ、ただ傍に寄り添ってくれる人が欲しい。
神様の前で、富めるときも病む時も、永遠の愛を誓い合った
つらい時だからこそ、妻のありがたみと大切さがわかります。
過去に若くして末期癌と向き合われた患者さんがいらっしゃいました。
優しい奥さんと若い娘さん、ご両親が見守っていて下さるご家庭でしたが、
突然に病が見つかり、それに向き合うことはつらかったろう数か月でした。
病気が見つかった時は既に治療の手立てがなく、
面会もできない院内で独り、不安と葛藤に向き合われていたと伺いました。
手術を受けたり抗がん剤の治療を受ける、
病に対して一縷の望みでもつないでくれる治療手段があるならばまだしも、
治る見込みがないと言われて独り、いったい何に頼ればよいのでしょうか。
仕事でも、職員さん方が出勤していない土曜日の朝に準備をすると、
棚にキッチリと今日の訪問に必要な物品を用意して、
今日に必要な手続きや書類を申し送りしてくれている。
今日も無事に診療が進められるかな、
がらんとした診療所に来ると少しだけ不安になることもありますが、
見えないところでしっかりと支えてくれている人の存在に、
どれだけありがたく感じることができているか。
何も言葉はなかったとしても、
ただそばにいて見守ってくれているだけで、
当の本人は、どれだけ心を助けられていることでしょうか。