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「桜月(サクラムーン)のおばあちゃん」

この季節は毎年桜がいちばんきれいな南円山。
新しい愛育病院の南側の八重桜は鮮やかな綺麗さで、
いつもずっと春の愉しみを眺めさせてくださいます。
昔に「桜月」があったすぐ近くの、時代を重ねた一軒家。
桜が散り終わった5月の末頃、そんなご自宅に訪問した理由は、
円山に何十年と住まわれている98歳の患者様にお会いするためでした。

息子さんご夫婦とずっと一緒に住まわれながらデイサービスも楽しく通われていて、
笑顔がにこにこと優しいというか可愛らしくて、とても楽しく診察させて頂いていました。
けれどもやはり年齢が徐々に、おばあちゃんの心臓を弱くさせてしまって、貧血も進んで、
身体が痛くてつらくなる時がやってきました。
息子さんご夫婦も大変でしたでしょうに、特に夜中に痛みや辛さが表れてしまって、
何度も何度も、先生と看護師さんが往診や訪問看護に入ってくださいました。

真夜中3時の呼び出しは本当にきつい。
眠いのではなくて、起きられない。
けれども、行ってみるとやっぱりご家族から感謝の言葉を頂けるし、
真夜中に咲いている桜があまりにも綺麗すぎて、切ない。

おばあちゃん、何度も痛い思いをさせてしまってごめんなさい。
自分がもっとできる医者だったらと思って、もっと勉強して、治せるようになります。

その方はほんの数日だけ痛みが引いたのか、朝方に自宅でふっと、穏やかな表情で休まれました。
息子さん方もこんなに大変な数か月だったのに、
最後にお暇するまで「ありがとうございます」とおっしゃってくださいました。
こちらの方こそありがたかったです。

夜中に誰かから「苦しい助けて」って言われて、
ひとりきりで出向くまでは医者でも看護師でも不安です。
何かの薬でちちんぷいぷいと治せるわけでもないことが多いし、
「ひと晩これで頑張ってみてください」とどれだけ優しく声をかけても、
辛そうな患者さんをそこにおいてお暇することさえも心苦しいです。
場合によっては伺ったとたんに亡くなってしまうかもしれないし、
もしかしたらもう既に亡くなっているのかもしれない。
実際にそういうことも多くあります。
真夜中に電話が鳴るこちらの方が心臓がバクバクして、
自分自身の命も削っている感覚がします。

そのつらさはみんな分かっている。だからこそこれからも続けていく。
自分ひとりで夜中に患者さんにかけた言葉の声も、
桜の花に囲まれた家も、患者さんの笑顔も、その記憶さえも、
いつかは消えてなくなってしまうのだけれども、
そういう徳を積み重ねてきた人たちが今までにたくさんいる。

そうして大切なものを繋いでいる自分にふと気付いたときに、
目の前にいらっしゃる患者さんの昔の人生や、生きた思い出を想像できるようになって、
優しい感性を持つ医療者になれるのだと思います。
https://www.panorama-journey.com/panoramas/2013/09/sakura_moon.html

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