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コロナ禍でひとつだけ良かったこと

15年前に訪問診療に携わらせて頂いた時は、
「自宅で過ごしたいから介護をする」というご家族が多かった気がします。
介護保険制度が導入されてから5年が経つか経たないかという頃だったので、
介護や看護は弱者を救済する福祉であるとの意味合いが強く残っていました。
介護士や看護師さん方も重症の患者さんには毎日訪問するのが当然。
そのような意識がありましたし、そうできる余裕もあったような気がします。
自分自身もひとりの患者さんに何度も伺って試行錯誤することで、
じっくりといろいろなことを学ばせて頂いた記憶があります。
しかしながら病院に長くいることができない社会制度へと変化するに連れて、
「退院するしかないからやむなく介護する」方が増え続けました。

そんなタイミングでの今年の新型コロナ禍でした。
東日本大震災や胆振東部地震と異なり、
ウイルスが人と人とを物理的に引き裂いていきます。
そんな中でもただひとつだけ良かったことがありました。
「一緒にいてあげたいから家に帰してきました」
という方が、急に増えたんです。
初めてのことでした。

90代のおばあちゃんが自宅に戻っていらっしゃいました。
娘さん方はこの半年間は毎日、病院へ面会にいらしていたそうですが、
2月の半ばから2か月の間は一度も面会することができなかったそうです。
やっと窓を開けることもできるようになった春の初めに退院されました。
世の中は緊急事態宣言中で、外は全く人通りがありません。
8か月ぶりに自宅に戻られた時は全く食事がとれず、24時間点滴をしていました。
ベッドの上で寝たきりですが、何か月ぶりに口から飲み物を摂れました。
ひさしぶりに会ったわんこを撫でることもできました。
退院した次の週になんとかお風呂に入ることもできました。
自然とだんだん、入れる管も出す管も減っていきました。
けれども体力は少しずつ、落ちていきました。

家族の体力がだんだんと衰えていく姿に寄り添うことも、
この時にしかできない貴重な経験になっているはずです。
連休中の木曜日、札幌の桜が開花しました。
どれだけ疫病が流行ろうとも、いつも通りに花は咲きます。
冬の寒風に慣れていた身体にとって、春の夜風はとても暖かく感じます。
おばあちゃんは、自宅の窓から今年も桜を眺めることができました。
その日の夜に、そっと患者さんは息を引き取られました。
気が付くとこの数年で後期高齢者の増加と人出不足の大波がやってきて、
ひとりひとりの患者さんに充分なケアを提供することが物理的に難しくなっています。
加えて「住宅型有料老人ホーム」を主にした介護施設が激増し、
急性期病院では在院日数や在宅復帰率を強く求められるようになり、
今はひとくくりにされている「訪問看護」という業務形態が多彩になり、
在宅医療が複雑になる要素は多く潜んでいます。

家族の体力がだんだんと衰えていく姿に寄り添うことも、
この時にしかできない貴重な経験になっているはずです。
連休中の木曜日、札幌の桜が開花しました。
どれだけ疫病が流行ろうとも、いつも通りに花は咲きます。
冬の寒風に慣れていた身体にとって、春の夜風はとても暖かく感じます。
おばあちゃんは、自宅の窓から今年も桜を眺めることができました。
その日の夜に、そっと患者さんは息を引き取られました。
気が付くとこの数年で後期高齢者の増加と人出不足の大波がやってきて、
ひとりひとりの患者さんに充分なケアを提供することが物理的に難しくなっています。
加えて「住宅型有料老人ホーム」を主にした介護施設が激増し、
急性期病院では在院日数や在宅復帰率を強く求められるようになり、
今はひとくくりにされている「訪問看護」という業務形態が多彩になり、
在宅医療が複雑になる要素は多く潜んでいます。

昔ながらの在宅生活は、少なくなりました。
今年からは都市部の在宅医療の新しい焦点は、
「分譲型ケア付きマンション」へ移ってくる気がします。
クリニックに大手のデベロッパーさんが来訪される時代です。
老後の糧になるはずのお金が大きく絡むようになり、
ハコはどんどん新しいものが生まれてくるのですが、
いつでも在宅医療・在宅介護の主役は人です。
今までにはなかった新しい課題がまた出てくるはずです。

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